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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)14034号 判決 1985年8月26日

原告

全炳東

被告

山本隆雄

ほか一名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、金三三万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年七月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、各自、金七三万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五七年七月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第1項につき仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

被告山本隆雄(以下「被告山本」という。)は、昭和五七年七月二二日午後七時四〇分ころ、東京都渋谷区南麻布二丁目四番地付近において、その運転する事業用普通乗用自動車(タクシー。以下「加害車両」という。)を停車させ、右側ドアを開ける際、右ドアを同車の側方を原動機付自転車を運転して通過していた原告の左頬部等に接触させ、よつて原告に対し、左頬部切創、左前脛部打撲及び切創、左膝上部打撲の傷害を負わせた(右事故を、以下「本件事故」という。)。

2  被告らの責任

本件事故は、被告山本がドアを開ける際の安全確認義務を怠つた過失により発生したものであるから、同被告は、民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。

被告日の丸自動車株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告山本の使用者であり、本件事故は、同被告が被告会社の業務のため加害車両を運転中に惹起したものであるから、被告会社は、民法七一五条に基づき損害賠償責任を負う。

3  損害

(一) 逸失利益 金三万五〇〇〇円

原告は、本件事故当時、家庭教師をして一か月金三万五〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため、約一か月間家庭教師をすることができず、金三万五〇〇〇円の損害を被つた。

(二) 慰藉料 金六〇万円

原告は、本件事故により、左頬部切創(長さ約一・五センチメートル)等の傷害を負つたが、この左頬部の傷害は完治し得ず傷痕が残るものである。また、本件事故は、原告が慶応義塾大学工学部四年に在学し卒業及び大学院への入学準備に追われていた大切な時期に発生したもので、このため原告は大きな痛手を被つた。これらの事情等に照らすと、原告が本件事故によつて被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、金六〇万円が相当である。

(三) 弁護士費用 金一〇万円

原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用として金一〇万円を支払つた。

4  結論

よつて、原告は、被告ら各自に対し、本件事故に基づく損害賠償金七三万五〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五七年七月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、原告への接触部位及び傷害の部位は不知、その余は認める。

2  同2の事実及び被告らの責任は認める。

3(一)  同3(一)の事実は不知。

(二)  同(二)の事実は不知、慰藉料額は争う。

(三)  同(三)の事実は不知。

4  同4の主張は争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)の事実中、加害車両のドアと原告との接触の部位、原告の傷害の部位を除く事実、並びに同2の事実及び被告らの責任は当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証によれば、本件事故は、加害車両の右側ドアと原告の左頬部及び左足とが接触した事故であること、原告は、本件事故により、その主張のとおりの傷害を負つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  そこで、損害について判断する。

1  逸失利益 金三万五〇〇〇円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故当時、アルバイトとして家庭教師をし、一か月金三万五〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故による受傷のため一か月余りの期間家庭教師を休み、このため少なくとも金三万五〇〇〇円の損害を被つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

2  慰藉料 金二五万円

原告本人尋問の結果及び前掲甲第一号証によれば、原告は、本件事故によつて被つた傷害の診察及び治療のため、本件事故当日から昭和五七年八月二八日までの約一か月余りの間に約八回麻布病院に通院し、その結果同日ころには右傷害がほぼ治癒するに至つたこと、しかし、左頬部(口の付近)には、長さ約一・五センチメートルの左程人目につかない程度の傷痕が残り、この傷痕を治すためには手術が必要であること、原告は、右の手術を受ける予定であるが、その手術には約一〇万円の費用を要する見込みであること、原告は、本件事故当時、慶応義塾大学工学部四年に在学し、卒業論文及び同大学の大学院への進学準備に追われていたところ、前記受傷のため、本件事故後約一か月の間通学が困難となり、学業に支障を被つたこと、ただ、幸い、卒業論文は期限までに提出することができ、また、大学院へ進学することもできたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。右の事実及び本件において認められる諸般の事情を総合すると、原告が本件事故によつて被つた精神的苦痛に対する慰藉料は、金二五万円をもつて相当と認める。

3  弁護士費用 金五万円

原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第三号証によれば、原告は、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用として金一〇万円を支払つたことが認められるが、本件事案の内容、本訴認容額、その他本件において認められる諸般の事情を総合勘案すると、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、金五万円をもつて相当と認める。

三  以上によれば、原告の被告らに対する本訴請求は、本件事故に基づく損害賠償として、被告ら各自に対し、金三三万五〇〇〇円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五七年七月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

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